アレクサンドリアの港を発ち、カンディアに向けて舳先を北西に向ける。
夕暮れの中徐々に遠ざかる、大河ナイルの河口。そのほとりに今も賑わいを見せる、 史上最も版図を広げた偉大な王の名を継ぐ都。 そして、その古都で旅人を相手に屈託ない笑みを浮かべる、僕と同じ名を持つ少女。 最初に「ユリア」を呼ぶ声を聞いたときは、本当に驚いた。 あの日以来僕は、ずっと「ユリオ」と名乗っている。 航海者仲間も何人かでき、地中海の東の果てで彼らと出会ってもおかしくは無いけれど、 故郷ポルトガルを遠く離れたこの地で僕の本名を呼ぶ人は、行方不明の叔父以外には 考えられなかったから。 実際には、振り向いた視線の先にいたのは、昼食の準備に精を出す休憩所のご主人と 奇妙な反応を見せた僕を不思議そうに眺める少女。 この休憩所の看板娘。彼女の名前が「ユリア」だと知ったのは、それから少し後だった。 彼女は、名前の偶然を大層面白がってくれ、僕らはすぐに打ち解けた。 僕の隣に腰を下ろして航海の話を聞きたがる彼女に、最初、僕は叔父から聞いたいくつもの冒険談を織り交ぜて語り聞かせた。 けれど彼女はその違いをすぐに見抜き、何よりも僕自身の体験談を聞きたいと言ってくれた。 好事家への報告という形ではなく、幼い僕に叔父がしてくれたように自分の冒険を語るというのは非常にこそばゆかったけど、彼女が目を輝かせて聞き入ってくれるのは純粋に嬉しくて。 「それじゃユリオさん、王様に嘘ついちゃってるんだ。大物だねっ」 僕が「ユリオ」を名乗るいきさつについて話したときの彼女の感想は僕にも新鮮で、二人して声を上げて笑ってしまった。 たまたま店が忙しくなる時間と出立の時間が重なってしまい、きちんと再会の約束をできずに別れてしまったのが心残りだけれど。 アレクサンドリアはエジプトの玄関口。これから何度でも訪れる機会はあるだろう。 その時、彼女は僕を覚えていてくれるだろうか? 「どうしましたキャプテン?柄にも無く感傷に浸って」 「港に誰ぞいい男でもいましたかい?」 夕暮れの潮風に髪を遊ばせながら、遠ざかる街の明かりを眺めていると、珍しい姿を見たとばかりに休憩中の船員達が声をかけてくる。 「残念賞。女の子だよ」 からかい気味のその声を、とりあえず冗談めかせて軽く受け流して。 「やっぱそっちの趣味ですかい。まぁ、男と並んだとこを想像するよりは余程しっくりきまさぁ」 ……失礼な発言をした船員の頭に、僕は遠慮なく長剣を鞘ごと振り下ろした。
by jurio_f
| 2005-04-06 18:52
| 航海記(キャラ視点)
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